このブログは「The Real Opportunity of GenAI in Software QA: Documentation and Release Review」を翻訳・一部加筆したものです。
ソフトウェアのテスト作業は、派手なツールや自動化フレームワークの中だけで行われているわけではありません。実際には、変更履歴、バグ報告、要件トレーサビリティ、各種の規制文書といった裏方の作業に多くの時間が費やされています。目立たない存在ではありますが、安全で信頼性が高く、十分にテストされたソフトウェアをリリースするために欠かせない要素です。地味ではありますが、非常に重要です。
生成AI(GenAI)が本当に役立つのは、テストケースの作成ではなく、リリース関連ドキュメントの複雑さに対応するためにQAチームを支援する場面です。
一般的なスプリントでは、QAエンジニアが数十、あるいは数百に及ぶドキュメントを確認する必要があります。テストログ、バグ概要、構成ファイル、機能の差分、関係者からのフィードバックなど、その量は膨大です。これらすべてを人手で確認するのは非常に手間がかかり、スケールさせるのも困難です。GenAIツールを使えば、文書の要約、重要な変更点の抽出、ギャップの特定、関連情報のリンク付けなどが可能になります。
たとえば、リリースフォルダ全体をアップロードして、以下のような質問をすることができます。
- 暗号化モジュールにどんな変更がありましたか?
- テストされていない新機能はありますか?
- 要件とテストカバレッジにギャップはありますか?
適切な設定がされていれば、GenAIはこれらの質問に正確に答え、該当するソースファイルや記録を提示できます。人間のようにシステムを「理解」する必要はなく、構造化・非構造化を問わずドキュメント全体を読み取り、パターンや内容に基づいて関連性を導き出します。
このアプローチは、トレーサビリティが求められる規制対象の環境では特に効果を発揮します。生成AIは、要件とテストケースの対応関係を構築・確認し、検証漏れをハイライトしたり、リリースノートの記載漏れを指摘したりすることも可能です。
これは「影響が大きく、リスクが低い」生成AIの活用方法です。コードを直接操作することも、プロダクション環境に触れることもありませんが、リリースする内容に対する可視性と信頼性を高めてくれます。生成AIの有効な導入先を探しているチームにとって、まず着手すべき分野と言えるでしょう。リリース関連のドキュメントは煩雑で重要、そして自動化による効果が得られやすい領域です。しかも、その効果はリリースを重ねるごとに蓄積されていきます。
生成AIがQAチームの課題解決に役立つ場面
- リリースごとに増え続けるテスト計画、ログ、レポートの対応
- 不完全または一貫性のない変更履歴
- 隠れたリスクを見落としがちな手作業の要約作成
- 更新されていない、または不完全なトレーサビリティマトリクス
生成AIが特に力を発揮するQA文書の分野
- ソフトウェアバージョン間の主な変更点の抽出
- バグ報告やテスト結果の要約
- ドキュメントに記載されていない機能や変更の特定
- 規制対象プロジェクトにおける未リンクの要件やテストケースの検出
RAG(検索拡張生成)によるQAへの応用方法
- リース関連データをベクターデータベースに保存し、高速で意味的な検索を実現
- 社内文書を学習させたQA用チャットボットを使い、リリース関連の質問に対応
- 前バージョンとの変更点をもとに、テストケースの下書きを自動生成
生成AIをリリースQAで活用することで得られる実際の効果
- リリースごとのQA文書作成作業を大幅に短縮
- 監査やコンプライアンスレビューに向けたトレーサビリティの強化
- 未テストや未記載の変更を早期に発見し、リスクを低減
実運用で生成AIを活用する際の注意点
生成AIは、文書レビューやトレーサビリティ分析、リリースバリデーションを加速することで、ソフトウェア品質プロセスに明確な価値をもたらします。ただし、実際のQA業務でその効果を最大限に引き出すには、専用のツールやプロセスと組み合わせて活用する必要があります。
1. 生成AIは複雑なQAデータを誤解する可能性がある
リリースノートやテストログ、トレーサビリティマトリクスなどを扱う際、AIモデルが自然な文章を生成できても、内容が正確とは限りません。特に規制や安全が重視される分野では、テスト管理システム、静的解析、GUI自動テストといった専用ツールとの併用が重要です。
2. 再現性と監査可能性の確保には構造が必要
生成AIの出力は、プロンプトやセッションごとに変動する可能性があります。そのため、安定性を保つためには、構造化されたツールチェーンやバージョン管理された成果物、テンプレート化されたプロンプト、人によるレビューなどとの併用が効果的です。
3. ドメインに特化した知識が求められる
汎用モデルでは、組み込みシステムや車載ソフトウェア、IEC/ISO準拠の分野に必要な専門知識が不足している場合があります。要件管理やバグトラッキングなど、すでにシステム情報を管理しているQAツールと連携させることで、より正確で実用的なアウトプットが得られます。
結論:生成はIは既存ツールと組み合わせてこそ力を発揮する
既存のQAプラットフォームやツールチェーンと連携させることで、生成AIは人間の判断を補完する「賢いアシスタント」として機能します。複雑な文書レビューや検証作業のスピードと明確さを向上させつつ、最終的な判断や責任は経験豊富なQAチームに委ねられます。
生成AIとQAツールの連携でさらに広がる可能性
GenAIは、すでに活用しているQAツールと組み合わせることで、その効果がさらに高まります。たとえば、GUIテストツール Squish との連携です。
最近の事例では、UIマップの記録データ、製品ドキュメント、テストログをもとに、GenAIがGUIテストスクリプトを生成・改良する活用方法が紹介されました。アシスタントはテストの実行、結果の解析、スクリプトの更新まで自動で行い、QAエンジニアは繰り返し作業から解放され、UI変更後のテスト保守にかかる時間も削減できます。
この仕組みにより、リリース文書の品質も向上します。AIアシスタントが用いる複数のツールを連携させることで柔軟性が高まり、Squishのテストが進化しても、他のQAツールと組み合わせて、テスト済み範囲の可視化や結果の要約、ギャップの抽出が可能になります。これにより、テストエビデンスの作成や要件との対応確認、リリースレビュー対応が容易になります。生のテストログを手作業で確認する必要はなく、文書化された変更やテストケースとリンクされた明確な要約を得ることができます。
プレッシャーの中でリリースレビューを行うチームにとって、生成とIとQAツールの連携は、テスト結果を迅速かつ実用的なレビュー資料に変換する強力な手段になります。
まとめ
ソフトウェアQAの本質は、「変更内容を把握すること」です。リリースのたびにその変化を記録する文書が生まれますが、その記録は非常に重要です。生成AIは、QAチームがその内容をより速く、より正確に読み取り、要約し、関連づけることを助けてくれます。
テストチームがスピードとトレーサビリティの両立を求められているなら、この分野こそが生成AIの適用に最適な出発点です。煩雑なドキュメント処理はAIに任せ、重要な意思決定やプロジェクトに集中できるようになります。
次のステップ

パネルディスカッション 「AIを活用した品質保証の可能性を最大化する」を視聴する
登壇者:
Peter Schneider(Qt Group プロダクトマネジメント プリンシパル)
Maaret Pyhäjärvi(CGI コンサルティングディレクター)
Felix Kortmann(Ignite by FORVIA HELLA CTO)
さらに詳しく読む:
AIアシスタントを活用したSquishテストスクリプト生成の実践ガイド